戻らない青春



もうすぐ旅の終わりを告げようとしている 少し寂しい景色

高速道路の上をもう何時間走っているだろうか

これまでの数日で疲れ切って居眠りする奴やら

疲れも知らずにたわいもない会話で盛り上がる奴やら

狭いバスの中にはいろんなことをしている奴がいて

そして、地図を広げ景色を見ている俺の周りには、トランプで盛り上がっている奴等がいる



つまらない映画なんかが流れているけれど、別に見る気なんかなくて

その代わりに音楽でも聴いて時間をつぶしている

周りの盛り上がりに時には背を向けたり、また時には一緒になって笑ったり

でもやっぱり一人で景色を眺めている方が俺の性には合っているのかもな



窓には景色の他に、今日までの旅の回想シーンが映って

「この3日間、いろいろあったな・・・」と心の中でつぶやく

波乱だらけの3日間だったけれど、やがていい思い出だったと思える時が来るだろう

もうすぐ訪れる「旅の終わり」を、知らないうちに心で感じ取っていた



ボーっと景色を眺めていたら、いつの間にか暗くなっていて

高速道路のライトが眩しく感じるようになっていた

こんなバスに乗った時なんて、景色を見ることしか楽しみがないのに

これじゃあつまらない・・・到着まであと3時間





心躍らせた1日目は、行けもしない大学を巡って

大都会とやらの光と闇に消えていくふりをして

2日目は何故か許された一人行動、時間の余りすぎた一人旅

そして、夜はディナークルーズで大はしゃぎして

疲れ切った3日目は・・・もうクタクタで

いろいろしているうちに、気がついたら・・・もうバスの中



1日目の高速道路のサービスエリアで、早くも“土産”を買ってみたり

大きな荷物の中にプレステ忍ばせ、ホテルでこっそりプレイしたり

夜中まで起きてエロ話に燃えたり、菓子を食い荒らしたり

酒・煙草が伴うような危険なものじゃないけど、それでも十分に楽しかったよ



100人いたならば、100通りの「旅」がある

そのほんの1通りだけど・・・それぞれに「重み」がある

ババ抜きで一番先にあがった奴も、ジョーカーが残って負けた奴も

また違った・・・それぞれの「戻らない青春」が、喜び、悔しさと共に一生残る



トンネルのライトの数数えなんていう、しょうもないことで一人盛り上がり

気がついたらすっかり飽きちゃって、また暇になる

トイレ休憩のパーキングエリアも、まだまだ10キロくらいあるな・・・

短いようで結構長い・・・到着まであと2時間





遊んでいた奴等も遊び疲れたかな・・・と思っていたら、懲りずにトランプを続ける

こいつらとはいつも表面的につるんでるけど、どこか信用できなかった

だけど、こいつらと馬鹿やっていられる時間も限られてるし

このひとときがずっと続くわけでもない

よく「未来」とか「過去」とかそんな言葉を使うけど

やっぱり「今」が一番大切。「今」を大切に生きなきゃ、一生後悔するだろう



映画にも回想にも孤独にも飽き飽きして、トランプにでも混じろうか

ルールとかイマイチ分かんないけど、まあなんとかなるだろう

くだらないことで騒いで、くだらないことで悔しがって、菓子でもほおばって・・・

長い人生の中じゃほんのつまらない時間だけど、とても大切な時間に思えた



でも満ちあふれた時間というのは、あっという間に過ぎて行く

この日を終えれば、この先卒業まで大きな行事なんてなく

あとは「受験」「受験」の日々になるから、「これが最後」という気持ちで

「楽しめるだけ楽しもう」と思っても、やっぱり、どこか心残りがある



パーキングエリアの休憩も終わり、バスがまた進み出す

海沿いを走っているはずなのに、海なんて見えない

頼りになるのは時々一瞬だけ見える、高速道路フォントの看板だけ

だけど、旅の終わりが近づいている・・・到着まであと1時間





最後の1時間はあっという間だった

気がついたら暗くても見慣れた景色

そして、高速道路を降りて、下道を走り続ける

座席の間から少しだけ見えたあの人の笑顔

しばらくは見られない・・・もどかしさを心に残して



いろんな想いを抱えながら、バスは「ゴール」へと近づいていく

どれだけ満ちあふれた気分になっても、やっぱり「ゴール」は寂しいものだ

だけど、こいつらが教えてくれた。「ゴールが終わりではない」と

「終わりじゃないんだから、もっと胸を張って人生を歩んでいけ」と



バスが停まり、小さい荷物を持って次々と降りていく

一昨日から今日までの出来事全てが「戻らない青春」となった

でも、この旅で得たものは決して忘れない

些細だけど満ちあふれたこの気持ち・・・一生忘れない







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