「僕と雷と」第4話



―夢想―









昔からの趣味がある。

それだけは毎日好き好んでやっている事だ。

繰り返し、繰り返し。全く飽きることは無く、故に終わりを迎えることは決してないだろう。

彼――琴原――はその行動に割と大きな満足感を得ていた。

例えば、それは自分が完璧なロックミュージシャンになれたり、最強の人間になれるのだ。

その自らを織り上げるのはイメージだ。

精密な空間を造り上げる力、それは文章を書く力と似ている。

想像し、それを徐々に展開していく。

その“思い描く”ことを彼は布団に潜り、眠るまでの時間にする。

これは常に思い描くとおりに動く。

それが人間だけが唯一許された能力ならば、つまり彼は人間らしい生き方をしていることに繋がる。



彼の想像することは、日により様々だが元は一つである。

つまるところ、彼は憧れているのである。想像する自分に。そして、近付きたいのだ。

しかし、それは実に難しい。

難しく、遠い存在だからこそ強く憧れる。それは間違いないだろう。



深淵へと意識を沈ませ、想像する。



その中には、常に理想の自分と笑顔の彼女がいた。





「ふぅ」



朝、目が覚める。

寒さが僕の体に針のように突き刺さり、微かな苦痛を感じた。

もう冬も終わるだろう空を見て、すこしだけ笑顔をつくる。

この曇り空ももうすぐで見なくなるだろう。

そう考えると少しだけ気が楽になった。



母親と父親は仕事へもう向かったのだろうか。

いや、多分帰ってきていないのだろう。

両親揃って、会社を経営しているだけあって忙しいようだ。



冷蔵庫の残り物を探す。大したものはないが急場はしのげそうだ。

僕は帰りにスーパーに寄って行くことを誓い、適当に朝ごはんを見繕って、家を出た。

時間としては余裕がある。僕はのんびりと自転車のペダルを漕ぎながらある事を考えていた。

もうすぐ季節は変わる。雪が溶けて春がやってくるのだ。



春が来れば全てが変わる。

桜が咲いて、僕たちは同じ道を歩むことになる。

このいまいましい冬空もしばらくはお別れだ。





――――少なくとも、僕はこの時そう思っていたんだ。これから起こる悲劇など知るよしもなく。

第5話へと続く



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