「僕と雷と」第6話
―佐山梨恵(2)―
正直、信じられなかった。信じたくもなかった。
体が熱い。まるで、鉄板に体を押し付けられたかのように、体は熱っている。
体が寒い。まるで、冷凍庫に閉じ込められたかのように、体が震えている。
私は眼前の惨劇に目をやる。
まるで、壊れた人形みたいに関節が逆に曲がり、頭からは血が流れ、溜まりが出来始めていた。
それはまるで、翼をもがれ上空200メートルから落下したカラスの様にも見えた。
「■■■、■■っ」
翼をもがれ、地に落ちた“人形”は、苦しそうに声を搾る。
「―り―、―かった」
「――梨恵、よかった」
その“人形”の顔は笑顔で固められていた。
それが、堪らなく気に入らなかった。
「きゃあああああああああ」
響く叫び。絶叫。
彼はまだ寝ている。いつまでも目を醒まさない。
◆
梅雨。
不安をぶつけるものはなんでもよかった。
別にスポーツジムで汗と一緒に不安を流してもよかったと思うし、何か没頭するものをつくればよかっただけだ。
ただ、それが何故勉強だったのかは自分にも分からない。
ただ、がむしゃらにのめりこんだ。
高校に入学してから、突き進んだ私は周りから一目置かれた。
友達付き合いも当たり障りないくらい程度にやった。何度か告白された。
でも、私には大切な人がいる、と全部断ってきた。
毎日、透の病院へと足を運んだ。
意識が無かったのも一月程度で一安心だったが、
彼の目は角膜が傷つき、視力が失われ全身を複雑に骨折してしまったらしい。
私が何か代わりに背負うことが出来たのなら、喜んで腕の一本や二本折っただろうに。
でも、現代じゃ、そんなことは出来ない。出来ないのだ。
私に出来ることはただ、彼の手を握り、優しく話かけることだけだった。
「あー、あついあつい。熱すぎるって!今はまだ梅雨の筈だろ!?
ほんと、隣のお二人さん勘弁してくれよ!俺、か弱いウサギちゃんなんだから、死んじゃうって!
あんたらの熱で死んだら責任とってくれよー」
全身を複雑骨折。オマケに目まで見えない透が、何故相部屋なのか。
最初は理解に苦しんだが、今はもういいと思っている。
「銀治さん。あんまりからかわないでください!」
「そうそう、いいじゃない。僕たちのことはさー」
透も軽快に喋る。やはり、24時間一緒にいるような仲だ。
確か、銀治さんのほうが年上の筈だが対等な感じだ。先輩面するような人ではなくて良かったと思う。
怪我や病気にはストレスは大敵だ。
銀治さんは、私たちより3つ上の19歳。
どのような病気で入院しているかは聞いていないが、顔は痩せていて、クマも出来ている。
きっと、大きな病気を抱えているのだろう。私はなんとなく気の毒に思う。
ただ、目は綺麗な人だ。澄んだ瞳は私を魅了する。
思い出す。ただ、ただ。
彼の瞳を。
彼の瞳は、確か――――
―――――綺麗な茶色だったはずだ。
第7話へと続く
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